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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)145号 決定 1978年5月17日

抗告人 ジエイ・エイ・ダイヤモンド株式会社

相手方 有限会社コーナヴイン

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。手続費用は全部相手方の負担とする。」との裁判を求める、というのであり、その理由は、別紙抗告の理由、ならびに即時抗告の申立理由補充書と題する各書面記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

抗告人が本件抗告の理由としてるる主張するところは、ひつきよう、相手方にはその主張する抗告人に対する債権はなく、したがつて抗告人には支払停止等の破産原因はないから、本件保全処分は失当である、というに帰着するが、破産法第一五五条に基づく破産宣告前の保全処分をなすについては、破産申立が形式上適法になされかつ主張する事情が法律上ならびに事実上一応理由ありとみられれば足り、必ずしも破産原因の要件の存在についての証明は要しないものと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和三〇年八月二六日決定、東京高裁判決時報六巻八号参照)ところ、本件破産事件記録によれば、本件破産申立についてはその申立は形式上適法でありかつその主張する事情は法律上ならびに事実上一応理由があるものと認め得るので、本件保全処分の申立は、破産原因の証明をまたずにこれを許容し得るものというべく、したがつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林信次 滝田薫 鈴木弘)

(別紙)

抗告の理由

一、仮差押決定の基礎となつた破産宣告申立(昭和五二年(フ)第二〇四号破産宣告申立事件)の原因として被抗告人(債権者)の主張している抗告人(債務者)の債務は全て債権者に対するものであるが、これは以下の理由によつて存しない。

すなわち、債権者(被抗告人)取締役であるボリス・エム・ターナおよび同じく債権者(被抗告人)取締役でありかつ昭和五二年九月二日まで債務者(抗告人)の代表取締役であつたデイヴツド・タイテルボームおよびイスラエルのフイスビゴ・ダイヤモンド・カンパニーを代表するチヤールズ・フインクの三名は昭和五一年九月一三日コーナヴイン契約という契約を締結した。(以下「コーナヴイン契約」という)(甲第一号証)

さらに右のボリス・ターナおよびチヤールズ・フインクの両名は同日付でコーナヴイン契約に関連し、コーナヴイン契約の企てに関する責任分担を定めた契約(以下「二者契約」という)(甲第二号証)を締結している。

二、右両契約により極めて明白なように

(一) 債権者会社コーナヴインは右の三者が個人としての利益をうけるためにダイヤモンドを日本国内で輸入販売する目的で設立されたものであり、かつ

(二) 債権者による販売活動は右三名の利益のためになされるものであり、債務者は債権者による販売活動のトンネルとして利用されているにすぎない(コーナヴイン契約I)項の2)および二者契約A)項の2))。

三、一方、登記簿謄本上明らかなように、債権者の取締役はボリス・エム・ターナ、昭和五二年九月二日まで債務者の代表取締役であつたデイヴイド・タイテルボーム、およびボリス・ターナの息子であるギヤリイ・ターナの三名である。

また債務者はそもそもベルギー法人クロツクマル・アンド・サンズエス・ピー・アール・エルの会社としてクロツクマル製品の日本における販売を目的として設立されたものであり(甲第三号証)このことはコーナヴインの関係者全員熟知していたことであり、関係者らはコーナヴインを通じたこれらの企てをクロツクマル側には秘密にしてくれと債務者の従業員中村祝子氏に頼んでいる。(甲第四号証)

この様に、このコーナヴイン契約に基づく企ては、前記の三者が、債務者の会社設立の目的に反して、クロツクマルに対して背信的に債務者をトンネルとして利用したものであつてデイヴツト・タイテルボームのこの所行が債務者の会社側に発覚し、同人はその非を認め代表取締役の職を辞したものである。

四、破産宣告申立の原因となつている債務者の債務は全て右タイテルボームの手形行為に基づくものであるが、この手形行為については、債務者はその取締役会において承認を与えていない。またこれら手形行為は全て、コーナヴイン契約に基づく取引のためになされたものである。

五、債務者は破産宣告申立の原因となつている債務以外に支払の停止をしたことはない。

六、よつて破産宣告申立の原因となつている債務者の債務は存在せず、従つて支払停止の事実もないので本抗告に及んだ。

即時抗告の申立理由補完書

右当事者間の東京地方裁判所昭和五二年(モ)第一九二五六号保全処分申請事件につき抗告人は、同裁判所がなした左記決定につき同裁判所民事第二〇部日記(フ)第二〇〇三号により抗告の申立を致しましたが、右抗告の理由を左記の通り補完致します。

一、仮差押決定の基礎となつた破産宣告申立(昭和五二年(フ)第二〇四号破産宣告申立事件)の原因として被抗告人(破産申立人-以下「申立人」という)の主張している抗告人(破産申立人に於ける被申立人-以下「被申立人」という)の債務は全て申立人に対するものであるがこれが存しない理由を詳述すれば次のとおりである。

二、申立人が被申立人に対して有すると主張する債権は存在しない。すなわち申立人の主張するイスラエルより輸入したダイヤモンドの申立人による販売は、被申立人に対してなされたものではなく、各顧客に対して申立人により直接なされたものである。すなわち、この販売は、申立人により次のようになされた。

1 イスラエルのフイスビゴ・ダイヤモンド・カンパニーを代表するチヤールズ・フインク、申立人会社住所地にパールズ・オブ・ニツポンの事務所を有していたボリス・ターナ、及び当時被申立人の代表取締役であつたダビツド・タイテルボーム (甲第五号証)の三者がフイスビゴのダイヤモンドを輸入して日本において販売し、三者が各これにより利益を得ようと企て、昭和四六年九月一三日付でこれにつき三者契約(以下「コーナヴイン契約」という)を締結した(甲第一号証)。

コーナヴイン契約は、有限会社コーナヴインにつき次のような合意をしている。

(1)  フイスビゴ・ダイヤモンド・カンパニーのダイヤモンドのみを輸入販売することを目的として設立する。

(2)  設立にあたり二〇〇株を発行し、ボリス・ターナが一〇一株、ダビツト・タイテルボームが九九株を所有する。

(3)  取締約は(2) の二名及びギヤリイ・ターナ(ボリス・ターナの息子)の三名とする。(甲第六号証)

(4)  ボリス・ターナは全般的な業務の統理、輸入通関、顧客となる見込のある者に対する信用供与限度を承認する等の責を負

(5)  ダビツト・タイテルボームは販売全体に責任を負う。

(6)  利益の配分は、パールズ・オブ・ニツポン又はボリス・ターナが総売上の一パーセント、ボリス・ターナ及びタイテルボームが純利益の五〇パーセントを各自受け取る。

旨定めている。

従つて、申立人有限会社コーナヴインの販売業務は、被申立人代表取締役であつたダビツド・タイテルボームが個人としてこれにあたり、その販売先のチエツクとこれの信用許与限度の承認はポリス・ターナがこれにあたつて、申立人の販売業務を行つて来たものである。

よつて申立人の主張するごとく、「申立人から被申立人に対し、被申立人の要請に応じて所要のダイヤモンドを委託し被申立人がこれを販売する」という事実はなく「申立人の取締役であるダビツト・タイテルボームが、申立人の取締役であるボリス・ターナの要請と承認において、ボリス・ターナの交付したダイヤモンドを有限会社コーナヴインの利益のために販売した。」というのが事実である。

2 ダビツド・タイテルボームによる右の販売は現実の形の上では全て、申立人名で被申立人宛インボイスが発行され被申立人名で各顧客宛のインボイスが発行されたが、これはタイテルボーム、ボリス・ターナ、及びチヤールズ・フインクの三者が、申立人による販売が申立人名またはタイテルボーム名でなされるよりそれまで国内で販売の実績ある被申立人の名でなされることが販売促進目的で有利である、と判断し、申立人名を利用することに合意したからである。

申立人が被申立人にダイヤモンドを販売する意思がなかつたことは以下によつても明らかである。

(1)  被申立人の代表取締役タイテルボームをわざわざ自社の取締役にせしめ、販売責任を負わせていること、(被申立人に販売するのであれば、被申立人自ら、顧客の獲得に努力するのであるからその要はない)、

(2)  申立人の販売活動に対する寄与の対価としてタイテルボームに申立人の純益の五〇パーセントを与える約定をしていること、(被申立人に販売するのであればタイテルボームは被申立人会社のために利益をのせることが出来、またその利益で充分の筈である。)、

(3)  申立人の個々の顧客(形のうえではコーナヴイン製品についての被申立人の顧客)に対する与信限度のチエツクをボリス・ターナの責任として、彼がなしていること、(被申立人への販売であれば被申立人の信用状況のチエツクのみで充分であつた筈である。)、

(4)  コーナヴイン製品の取引に関して、被申立人の口座に預入された約束手形、小切手又は現金は全て自動的に申立人の口座に振替えるとの約定をしていること。(申立人及び被申立人間に明瞭な売買をなす意識があれば到底このような約定に到る余地はない筈である)更に、

(5)  コーナヴイン契約と同日付のボリス・ターナとチヤールズ・フインクとの間の契約(以下「二者契約」(甲第二号証)という)の第A項2)によればチヤールズ・フインクが「ダビツド・タイテルボームがジエイ・エイ・ダイヤモンド株式会社の名において出す全ての小切手、約束手形については、チヤールズ・フインクが一切の責任を負い、かつダビツド・タイテルボームが不正行為によりジエイ・エイ・ダイヤモンドに損害を負わせたときにも一切の責任はチヤールズ・フインクが負うこと」に約定されていること。および

(6)  コーナヴインの関係者一同が当時タイテルボームの秘書をしていた中村祝子に対しかゝる取引の存在を決して被申立人親会社のベルギー法人エル・クロツクマル・アンド・エス・ピー・アール・エル及び被申立人会社のタイテルボーム以外の取締役レオン・クロツクマル氏及びエミール、リーバー氏に対し厳重に秘密にしてほしいと要請していること(甲第四号証)(ダイヤモンド業界の常識としてクロツクマル社製品以外のものを被申立人が扱う可能性のないことをボリス・ターナ及びチヤールズ・フインクも熟知していた。)

等により極めて明白である。

3 以上のように申立人の販売は被申立人に対してなされたものではないから申立人主張の債権は存在しない。

三、百歩譲つて仮に本件売買が申立人、被申立人の間にあつたとしても、かかる売買は商法第二六五条により無効であり、それに基づく被申立人の手形行為もまた同様の理由により無効である。

先ず被申立人の側から考えると、本件販売は形の上では申立人から被申立人に対して為されたものであり一見、商法第二六五条にいう取締役と会社の間の取引ではないように思われる。しかし、前述のようにタイテルボームは、申立人に生ずる純利益の五〇%を受け取ることになつていたことから考えると、本件売買が実質的に被申立人とタイテルボームの間に利害の衝突をきたすいわゆる間接取引に該当することは明白である。被申立人の取締役会が本件取引について承認を与えた事実は全くなく、従つて、本件売買が無効である事は疑いない。この理は手形行為(振出・裏書)についても全く同様であり(最判昭和四六年一〇月一三日)手形行為自体もまた無効である。

更に、申立人の側から考えると、申立人は自己の取締役が代表取締役である被申立人に対して販売したことになる。この場合タイテルボームは被申立人の代表取締役として被申立人のために申立人と取引を為したものであるから有限会社法第三〇条第一項にいう「第三者ノ為ニ会社ト取引ヲ為」したものであることは論をまたず申立人の社員総会の特別決議が必要なところ、そのような決議は存在せず右取引は無効である。

手形行為自体についてみると、会社が自己の取締役が代表取締役を兼ねている他の会社に宛てて約束手形を振出す行為が商法第二六五条にいう「取引」にあたることは確立した判例であり(最判昭和四六年一二月二三日)、この判例理論からすれば本件手形行為について申立人の社員総会の特別決議が必要であることは当然である。即ち、申立人が株式会社でなく有限会社であること、また本件手形行為が手形の振出しではなくその受け取りであることにより結論が左右されるいわれはないのである。

よつて被申立人に破産原因はなく申立は理由がないので棄却さるべきである。

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